「どうでもいい病」は「セルフ・ネグレクト化」の始まり?!
「セルフ・ネグレクト」については本コラムでも何度か取り上げていますが、「自己放任」といわれています。老化などにより、生活意欲が減退し、「ゴミ屋敷化」する例があいついでいます。
プチ散らかり、プチゴミ屋敷化している親御さん、高齢者さんを含めて、私どもは「セルフ・ネグレクト化」しているととらえてもいいといっても過言ではありません。
もちろんちょっとした季節の変わり目、体力の低下、お仕事を持っている方は仕事が忙しいなおどの理由もあります。
なかなか一般化していませんので、簡単に「めんどくさい病」「どうでもいい病」と言い換える場合もあります。
語弊があるかもしれませんが、現場では、カタカナよりも深刻さがなくなるので使っています。
少しでも一般の人に関係していると身近に感じてほしいと思います。
1人暮らしが長くなり、人と話す気持ちもなくなり、食事はコンビニへの買い物のみとなり、ゴミの日にゴミを捨てなくなることから始まることが多くなります。
生活意欲の減退ともいえます。
片付けの語り掛けで、「セルフ・ネグレクト化」「ゴミ屋敷化」を防いだ例もたくさんあります。
ポイントは、一般的な病気と一緒です。早期発見・治療。完治しなくても、進行を遅らせたり、症状を和らげることはできるのです。
もちろん家族で手に負えない状況であれば、地域の包括センターなどに相談にいってください。
セルフ・ネグレクトは、高齢者でなくてもあり得ますので、注意が必要です。
危険な兆候! 親の行動・会話パターン
実家の母は、それまで地域で絵を教えるほどだったのに、すっかり描かなくなっていることに私が気が付いて、生活意欲の減退、老化を感じて、実家の片づけに着手しました。
それまでは、自分の親はまだまだ元気と、どこかでたかをくくっていたのです。
一般的なよくある具体例としては、
美容院にいくのも、お金がかかるといういいわけをしていかない。
どうせ昼寝するから、パジャマのままでいいや。
病院にいくのも面倒。あそこは年寄りしかいないから(自分はあの人たちとは違う)。
今日は雨だからゴミを出さなくていいや。傘さすのたいへんだし。
今日は眠いから、ゴミ出しの日だけど、まあいいや。
面倒くさい。どうでもいい。
典型的なのは、ゴミ出しをしなくていい理由を考えていることです。
そのうち、本当にどうでもよくなりますから、ほうっておくのは危険です。
典型的な会話例3つをご紹介します。
親をその気にさせる 片付け現場の語り掛け会話例
① 部屋をほめる
一方で、高齢期の親御さんと一緒の片づけをさせていただいたり、高齢者様がいらっしゃる家にうかがい、素敵なお部屋に物が散乱しているケースに出会います。
「もう老い先短いのだから、どうなってもいいんだけどね」
「今までもこうだったら、別にいいんですけどね」
と口にします。
きれいにしたいというご本人のお気持ちで、ご依頼を受けているはずなのに、かなり前向きな気持ちでご依頼をいただいているのにもかかわらず、です。
人生のマイナスイメージ、終わりという悲壮感が先に現れていらっしゃいます。
けれども、私たちは片づけるのが仕事です。
「いいお部屋ですね。ここをこういうふうに片づけたら、もっと素敵なお部屋になりますね」
「これからをよくするために、今片づけましょう」
というご提案をさせていただきました。
世間話をしながら作業をし、帰るころには、にこにこしていただきます。
親をその気にさせる 片付け現場の語り掛け会話例
②部屋をリフォームする、修繕する機会にする
わたしの実家の母の例を紹介します。
床がへこんでいるので、リフォームしようと提案しました。
「老い先短いから、こんなことにお金かけてもね~」
「もうどうでもいいんだけどね~」
「ひとりだと、もったいないし。ぜいたくだし」
と、何度もいいます。人生のマイナスイメージ、終わりという悲壮感が先に現れていました。
そこで、80代の方は100歳まで生きる可能性が高いと、繰り返し言います。
あと20年、きれいな床で過ごせるのなら、安い買い物です。
1日あたり、いくらですか。計算してみることを提案します。
床の直しに、20万円かかったとしましょう。
あと20年、つまずかない心配がなくなるのなら、1年あたりたったの1万円。1日あたりたったの27円です。
100円ショップにいって、無駄なものを買うより、野菜を買いすぎてくさらすより、よっぽどいいのです。
今はあの手この手で高齢者を勧誘する金融商品が出回っているので、「高い保険よりも安いよ」といったら、母もだいぶ納得してくれました。
持ち家にこだわる世代、家でずっと暮らしていきたいと思う、物よりも家に思い入れがある人には、この提案は結構、効き目はあります。
親をその気にさせる 片付け現場の語り掛け会話例
③ 正論よりも習慣・趣味・好きなことを優先
実家の親に片づけてもらうといっても、「させる」という視点があると、すぐにケンカになってしまいます。
子どもが買ってきた新しい多機能グッズや、こうしたほうがいいという片づけ方を押し付けてもムダです。
いくらいいとわかっていても、これまで大丈夫だったという体験(多くは散らかり体験)には、かなわないのです。
実家を片付けることは最終的な目的ではありません。
わたしたちができる一番ベストなのは、片づけて、生活意欲を持ってもらうことです。
安心・安全・健康で、家族円満な生活を取り戻すことです。
ここに重点を絞った例をご紹介します。
ある盆栽が好きなご高齢者が、水やりがおっくうになってやめてしまいました。腰が痛くなったからです。
そこで、じょうろを小さいものにし、ホースをとりつけることにもしました。
とかくご高齢の方は、新しい道具を取り入れるのはたいへんですが、自分のこれまでの習慣を呼び起こすことができるものは、取り入れることができることが多いです。
なにしろ娘と話す機会を持てたのがうれしかったようです。ここでも会話がミソです。
あるケーキづくりが趣味だった人が、最近は料理をしなくなり、ケーキを焼くのがおっくうになったというかたがいらっしゃいました。
当然、キッチンは物だらけ。簡単な汁物ぐらいしかつくった形跡しかありませんでした。
なぜケーキを焼かないかというと、孫が大きくなり、ケーキを食べる人がいなくなったからです。
ご家族と相談して、
「孫のバレンタインのチョコケーキをつくってほしい。そのために台所を片付けよう」
というご提案を、娘さんからしてもらいました。
私たちからは、
「台所に物を運ぶのに廊下に物があると危ないから、玄関から台所までの廊下も片づけましょう」
とご提案し、片づけていきました。
またあるお宅では、部屋が物であふれているので、廊下で着替えていました。
もともとはお部屋のタンスの前で着替えていたのですが、クローゼットの前のパイプハンガーがあり、その前に洗濯物の山ができてしまったのです。
この方は押入れを改造して素敵なクローゼットを7年前につくったのに、今ではこの状態ということでした。
よく観察させていただくと、クローゼットの斜めまえにバックを置く習慣がありました。
バッグを置くので、クローゼットがあかなくなります。
そこで、クローゼットの前に服がたまっていく様子でした。
バックを置く場所に、バックかける場所をつくってみたら、クローゼットが使えるようになり、たいそう喜んでいただきました。
服もカンタンにしまえます。クローゼットのすっきりも、キープしているようです。
うれしいですね。
こんなふうに、簡単なことで生活意欲を取り戻すことができます。
新しい習慣、物をとりいれるよりも、本当にすきなことを回想し、それができる意欲を取り戻せる「環境づくり」が大切です。
家族や周りの人のきめ細かな対応が必要です。
家族だから見えないこと、家族だから見えること、両方あります。
「どうてもいい」という口ぐせがあったら要注意。
セルフネグレクト化、ゴミ屋敷化の危険もあります。
対応する方法はありますから、あきらめず、SOSを出していきましょう。
どうぞ片付きますように。(渡部亜矢)。