母親は60歳を過ぎてから押し花教室に通い始めた。
最初は乾燥した素材を購入していたようだが、そのうち草花の収集から自ら行い
自宅で乾燥させてから押し花を製作し、最後は額に入れてその都度部屋に飾っていた。
70代に入り細かい作業に目が疲れるということで、自作をすることはすっぱり止めたが
まだ師匠の展覧会等には足を運んでいるようである。
額入りの押し花はかなりの数になっていたがその収納場所は何故かクローゼット下段になっていた。
もの凄く良い場所に何故衣服以外のものを収納しているのか、凄く不思議だったが
よくよく母親の行動を観察してみると、膝の曲げ伸ばしが上手くできないのが原因していた。
押し花の額は小さいサイズでも重く大きいサイズになると胸より高い場所から
出し入れするには私でも重労働であった。
あえて一番使い易く、開閉が広めなクローゼットの下段に入れて出し易いようにしていたらしい。
「今後は季節毎に飾るものだけを残したい」
「収納は同じ場所にしたい」
という母の希望を第一に考えて押し花の額の整理をすることにした。
まず、作品の『残す』『処分』の選別をした。
母親自身の思いが詰まった趣味の作品の取捨選択に『子供の主張』や『提言』は全く要らない。
ただただ、ひと作品ごとに箱を開けて話をじっくり聞くことである。
母親自身が迷っていたら「とりあえず取っておこうか」とそれだけでいい。
ただ、迷った作品は母親には内緒で印をつけておいた。
『迷う』のは明らかに『お気に入り』とは一線を画すので後々処分対象になる可能性が高い。
それを言う必要がないので、こっそりと。
印をつけてもいいし、収納をする時に分けてもいいかもしれない。
最初はなかなか進まなかった選別は急に『捨てスィッチ』が入ったのか後半は加速して行き
母親としてはかなり思い切って処分したな、という程の数が出た。
後は、飾る頻度順、大きさごとに収納していくとクローゼットの下段だけに収めることができた。
額類の処分は成功したが、押し花を製作するキット類や乾燥機は「まだ置いておく」ということでその意思を尊重した。
多分もう押し花を作りはしないだろう、と私も母自身も思っていたと思うが、それも作品と同じ『思い出』のひとつである。
時々引っ張り出して楽しかった思い出に浸ってもいいだろう。
花の乾燥機の型が私からすると不格好でいつも「それ、ダサーっ」ってツッコミを入れていれて
笑っていたので、いつの間にか家族の思い出にもなっていた。