実話 50代の親と20代の子の家族危機

20年以上前の、20代の私の、ストーリーをご紹介します。

家族危機

50歳の若さでがんを患った私の父が、治療のため、家から1時間半以上かかる、
都心の病院に入院していたころの話です。

同じく50歳の母は、往復3時間以上かけて、毎日病院まで通っていました。
80代の祖母は、母が父の看護に専念するため、老人施設に入ることができました。
それでも、母は、過労から、実家の近くの病院に入院してしまいました。

母の入院は、突然だったので、困りました。
保険証などの重要な書類はもちろん、三文判のハンコ1つみつけられず、
母の着替えがどこにあるのかもまったくわかりませんでした。

都心の大学に通っていた弟は、ちょうど試験の時期で昼間は動けなかったので、
学校に行く前に洗濯と食器洗いなどの家事を、分担してもらいました。

20歳を少し超えたばかりだった私は、残業後、勤め先の横浜から、
都心の父の入院先、祖母の施設、神奈川県西部にある母の入院先を回ると、
帰路だけで100キロ以上の旅となり、帰りは夜中になりました。

私が家に帰り、キッチンに行くと、洗ったお茶碗が全部、上向きになっていて、
水切りの上に重なっていました。
しかも、泡が、上向きのすべてのお茶碗の底にたまっています。
弟は、食器を洗ったことが一度もなかったので、すすぐことも、
洗ったあとに茶碗をふせて置くことすら、知らなかったのです。

洗面所にいくと、なんだか戸棚からモノが引っ張り出された跡があります。
洗濯をしようとした弟が、洗剤の置いてある場所がわからず、散らかしたようでした。

庭を見ると、洗濯物が塊になって干してありました。
広げて干すという、当たり前のことも知らなかったのでしょう。
シャツの袖もズボンの裾も内側に入ったまま、タオルはまるまったまま、
ひっかけてありました。

さらに、洗濯物の下には、泡の水たまりができています。
晴れていたのに、おかしいな?と思ってよく見ると…

なんと…
当時、主流であった二層式の洗濯機で、すすぐことも脱水することも知らなかった弟は、
すすぎも脱水もせず、泡でびしょぬれの洗濯物を、そのまま物干しに、
並べて、ひっかけていたのでした。

夜中の真っ暗な庭で、洗濯物の下にできた、泡の水たまりをみて、
体の力が抜けていったのを、今でもよくおぼえています。

私と母しか家事をしないことについて、母には時々疑問を呈していたものの、
ここまで徹底されていたのだと、気づいた瞬間でした。

キレイでも、2日で散らかる家

当時のわが家は、高度経済成長期を絵に描いたような、サラリーマンの父と専業主婦の母、
子ども2人と祖母の5人家族。
いい悪いの評価は抜きにして、「男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしく」という
いわゆる性別役割分業の下に育てるのが、子どもにとって幸せだと、
信じてうたがわない親でした。

今でこそ、家庭科は男女必修ですが、中学以上は女子だけの科目でしたし、
「男子は家事ができなくて当たり前」だった時代だったとも、言えるでしょう。

専業主婦の母がきれいに片づけていた、高度経済成長期の夢をかなえたかのような、
郊外の一軒家の、ごく普通のわが家は、
父と母の入院で、あっという間にバランスをくずし、
家中、散らかるのに、2日もかかりませんでした。

限られた家族の時間を濃密に

もし、当時の私が実家の片づけのスキルを知っていたなら、
父との最後の時間を、もっとゆったりと、濃密に過ごせたのではないかと、
感じています。

もし、保険証やハンコなどの重要書類の収納場所を、家族間で共有していれば、
無駄な探し物の時間が減り、父と会話する時間をふやせたかもしれません。

洗濯機などの家電の使い方や、食器洗いなど、毎日の家事の基本的なことを、
家族全員で共有し、できるようにしておけば、母は心身ともに余裕ができ、
倒れなくてすんだかもしれません。

片づけには、家族のひとりひとりができること、共有したほうがいいこと、
しまい方など、いろいろなコツがあり、家族の危機に備えることができます。

私は、両親からの愛情に恵まれ幸せに育ったことに心から感謝していますので、
批判する気はまったくありません。
でも、専業主婦ひとりが担う家の片づけでは、散らかるのに、
2日もかからなかったのは、事実です。
病気などのような、家族の危機は、生前整理をしておけば、
もっと楽に過ごせたのではないでしょうか。

世の中には、3・11の震災や、いろいろなご病気などで、
たくさんのご苦労をされている方がいらっしゃいますので、
それに比べれば、当時の私は、目の前のことをこなすのに精いっぱいだっただけの、
よくある話のように思います。
ただ、実家の片づけ方を知っていたら、もっと自分も周りもラクに過ごせただろうなあ…と、
感じています。

片づきますように。

 

実家片づけ整理協会   渡部亜矢

 

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